マラソンの医学(香川スポーツ1998年5月14日掲載)
最近、自分の健康は自分で守ろうと、中高年の間でマラソンを楽しむ人が増えている。しかしながら、ランニングに起因する下肢のスポーツ障害で、マラソンをあきらめなければならないこともしばしばある。スポーツ障害を克服し、だれもがマラソンを楽しむためのワンポイントレッスンを一言二言。
外来でよく見る下肢の主なランニング障害(参照図)には次のものがある。
▷ランニングの初めと終わりに膝の内側が痛む変形性膝関節症
▷O脚のランナーに多く、膝の外側が痛む腸脛靭帯炎
▷弁慶の泣き所といわれる脛骨の内側が痛み、慢性化すると疲労骨折に至る脛骨過労性骨膜炎
▷走り出すと痛みが楽になるため、慢性化しやすく、突然、腱断裂に至るアキレス腱炎
▷土踏まずが高い場合(偏平足と反対)、炎症を起こしやすい足底筋膜炎
▷足の甲が走り出すと痛む中足骨疲労骨折。
このようなランニング障害にならないようにするには、次のような気配りが必要だ。
@ 一週間の走行距離を60キロ以内に抑え、スピードを調整する。
A 急な坂道、小さいトラック、舗装道路でのランニングは避け、芝生や土の上を走る。左回りだけでなく右回りも取り入れてバランスを取る。
B 中高年の方は、下肢の筋力とくに大腿四頭筋の強化に努める。
C 大腿後側の大腿屈筋、ふくらはぎの下腿三頭筋、土踏まずの足底筋の柔軟性を保つために、ランニングの前後に十分ストレッチングを行う。
D ランニングシューズは、靴底が厚めで、アーチサポートがあり、衝撃吸収性に優れていて、アキレス腱があたる部位にクッションのある軽めのものを選ぶ。
E 足首捻挫の経験のある方は、できるだけ伸縮テープを使用して、簡単にテーピングをする。
これから夏にかけてのマラソン大会で発生しやすい病気に、熱中症がある。人間は発汗によって体温の調整が行われている。このため気温27度以上、湿度70%以上の条件で、水分を取らずにランニングすると、脱水状態となり、発生した熱が体内にたまる。そして循環機能や発汗機能が減退し、脳障害や体温の異常な上昇が起こる。これが熱中症である。
ロサンゼルス五輪で、女子マラソンのアンデルセン選手が、ふらふらになりながらゴールテープを切ったのは記憶に新しいと思う。ふくらはぎのけいれんや血圧の低下などの軽い症状から、40度以上の高熱と、さらには意識不明の危険な状態になる事もある。
これを予防するためアメリカスポーツ医学会では、マラソン前に500ミリリットルの水を、走行中には3〜4キロごとにミネラル飲料水(スポーツドリンク)をトータル1000ミリリットル補給、マラソン後は10%の糖質液1000ミリリットルを摂取するよう薦めている。
ランニング中の重要なエネルギー源は、骨格筋中に蓄えられた糖質である筋グリコーゲン。それを蓄積するためには最低3日は必要なので大会3日前は練習量を控え、ミカンやリンゴなどの繊維性食物を避け、低脂肪食や高炭水化物食を中心に、果物などを含めた高糖質食を摂取すると良い。
スタート3時間前に食事を取りスタート直前に、バナナ(やる気を起こすノルアドレナリンが増加)を1本ペロリ。これであなたの勝利は、間違いなし。自分を信じて楽しくマラソンを完走して下さい。