足首の捻挫(香川スポーツ1998年6月25日)

 

 「タッタッタッ」。さっき女房と出かけたはずの息子が息を切らして帰ってきた。「ママが痛くて歩けんゆうて泣っきょる」。広島生まれのこいつも、いっぱしの讃岐弁を使うようになったな、などと感心しながら、門の所に行ってみると・・・。石段で、女房が右足を宙に浮かせたまま、その場に立ちすくんでいる。よほど痛いとみえて声も出ない様子。

 

 大学時代、バスケットボールで右足首を捻挫した話を思い出した。その時は数時間歩けず、しかも足首がパンパンにはれたらしい。医者としてそれを聞く限りでは、明らかに足関節外側靭帯損傷だが、女房は病院にも行かず治したと胸を張っていた。なにしろ、僕と結婚するまで外科と整形外科の区別がつかなかった人だから・・・。僕は、妙に納得してしまった。

 

 この足関節外側靭帯損傷が、いわゆる足首の捻挫である(時には内側靭帯損傷もある)。バレーボール、バスケットボール、サッカーなどのスポーツで、他の選手の足の上に乗ったり、ジャンプして着地した時に捻挫する。一般的に、内ひねりによる内反捻挫がほとんどで、関節を支える外側の靭帯が伸びたり、切れたりして、靭帯周囲の血管が裂け、足首にはれや痛みがおこる。

 

これを正確に診断するには、ストレスをかけたレントゲン撮影が必要である(図参照)。軽い捻挫では、前距腓靭帯が伸びただけで、はれや痛みはわずかである。中等度の捻挫では、前距腓靭帯が切れ、距骨の傾斜角度が5度以上になる。はれや痛みが増し、ひねると痛い。重症になると、前後の距腓靭帯と踵腓靭帯の二つが完全に切れ、距骨の傾斜角度が15度以上となる。関節はグラグラになり、ほとんどの場合、手術が必要。とくに10歳までの幼児は、捻挫の程度にかかわらず、靭帯の損傷とともに、腓骨の先端が骨折する場合があるので要注意。

 

捻挫したら、すぐに足を挙げたまま患部にアイスパックなどをあて、1530分間冷やす。この処置を12日間、断続的に行い、歩く時はなるべく体重をかけないようにする。はれや痛みにかかわらず、できるだけ早く整形外科や接骨院へ行った方がよい。はれと損傷程度が軽症であれば、3週間ほどテーピングで足首を固定する。中等度や重症の場合、ギプスやテーピングによる固定が36週間は必要。年齢やスポーツ種目によっては、切れた靭帯の縫合手術をしなければならない。いずれの場合でも、スポーツをする人は、捻挫して36か月間、練習時にサポーターの装着やテーピングの固定は欠かせない。また、練習前後と入浴後の下腿三頭筋(ふくらはぎ)のストレッチングも効果的である。

 

1990年ウジュンパンダンにて

僕の女房のような慢性化した足首の捻挫は、試合時に固定装具を着用したり、テーピングで固定すれば痛みと炎症の進行をある程度食い止めることができる。しかし、歩くだけでも足首が痛く、びっこを引くような場合には靭帯の再建手術が必要となる。痛みが軽いから「単なる捻挫」と片付けて適切な処置もせず放置するのは、慢性化の恐れがあり、危険である。