試合中の救急処置(香川スポーツ1998年4月23日掲載)

 スポーツ現場で活躍するドクターやトレーナーは、打撲や傷を負った選手の救急処置をいかに正確にかつ迅速に行うかが重要だ。

【注】RICE法

Rest 

安静を保ち患部を動かさない。

Icing 

患部にタオルなどを巻き、アイスバッグやビニール袋に包んだ氷で15〜30分冷やす。

Compression 

包帯などで患部を軽く圧迫する。

Elevation 

患部を心臓より高く上げる。

出血のない打撲は、RICE法(注参照)に準じて処置する。出血のある傷は、土や芝生などの異物がないかを確かめ、できるだけ早くきれいな水で洗い流し、ガーゼやタオルで圧迫して包帯を巻く。特に止まりにくい出血が見られる四肢の傷は、圧迫した後、患部から心臓に近い上腕部や大腿部をタオルやひもで縛って駆血し、直ちに医療機関で受診するのが良い。

頭部の出血は、非常に大量で、驚くことが多いが、傷口を15分ほどタオルで圧迫するとほぼ止血できる。しかし、頭部を打撲し、脳しんとうを起こした選手は、ただちに競技をやめさせる。翌日、吐き気や頭痛がある場合、専門医によるCTかMRIなどの精密検査が必要。その結果、わずかの頭蓋内出血を見つけることもしばしばある。もし検査をせずに、この状態を放置すれば、死に至ることもある。

 

3月15日、県ラグビーフットボール協会50周年記念大会(全早稲田大対全同志社大)が県立丸亀競技場で行われた。試合中、早大のスクラムハーフの選手がタックルで倒れ、左手のしびれを訴えた。
 直ちにグラウンドドクターの指示が出され、急きょ選手を運びだす担架が必要になった。医務室を開けようとしたが、かぎが掛かったままで入室できず、近くにあった長机をグラウンドに運びだした。

 このハプニングで、一瞬、競技場は爆笑の渦に包まれた。その直後、会場係が医務室から立派な担架を出し事なきを得たのだが・・・。大会を運営する医務委員の一人として救急時の準備、確認が不十分だったと反省させられたが、幸い選手は頭に異常もなく、頚椎捻挫による神経根の刺激症状だけで、30分後、元通りに回復した。

この県立丸亀競技場は、Jリーグの公式戦が行えるだけあって、素晴らしい緑の芝生(ケガをしにくい)はもちろんのこと、医療設備が充実しているのには感激した。一方、県内の古いスポーツ施設を見ると、救急箱を設置しているところは多いのだが、それ以上の医療機器を完備しているところは少ないように思う。

10年前、屋内競技としてバドミントンやハンドボールが盛んなデンマークに、遠征した時のことだ。人口8000人の小さな田舎町の体育館に、救急用のベッドや蘇生器具があった。そのうえ簡単な手術が可能な医療設備があるのには驚かされた。
我が国でも、スポーツ競技人口の増加する中、現場での救急設備の充実が望まれる。